大きさって何だ?
横須賀美術館で開催中の企画展「センス・オブ・スケール展」を見てきました。
展示のテーマは「縮小/拡大する美術」
企画展パンフレットの説明より
「私たちは科学の進化とメディアの発達によって、目に見えない最小の物質から遠く離れた宇宙の果てまで、あらゆるスケールの事象について情報を得られるようになりました。その一方で、実際の大きさを体感することはとても難しいことです。アーティストにとってもスケールは、作品のコンセプトや展示空間に影響する現代的なテーマの一つです。 本展では、現代美術を中心に、精密な縮小模型から、視点を対象から離すことで広範囲の世界をとらえた写真や絵画、異なる縮尺が存在するインスタレーションなどを取り上げます。スケールが変われば、なじみの風景や事物も、大きく印象を変えるでしょう。美術館で体験する「スケール」の旅をお楽しみください。 」
出品作家:岩崎 貴宏、国友 一貫斎、鈴木 康広、高田 安規子・政子、高橋 勝美、田中 達也、
中谷 宇吉郎、野村 仁、平町 公、ロバート・フック、松江 泰治
ミクロの世界、宇宙の世界、虫の目、鳥の目、人間の目…スケールをテーマにした展示は何となく科学館で行われるものというイメージもあり、美術館が開く”スケール”をテーマにした企画展ってどんなものだろう?と興味がわきます。雨の合間を縫うように横須賀までドライブ。
横須賀美術館は観音崎の海に面した、すっきりとした美しいミュージアムです。
雨はギリギリ降りませんでしたが、お天気はイマイチ。晴れていれば、白とガラスの透明感が青空と緑をバックに映えそうな建築です。緑の芝生、その向こうには大型船が行き交う東京湾、天気が良ければ千葉の木更津がはっきりと望めます。海あり山ありの横須賀の地形のいいところを十二分に生かしていますね。当館は市制100周年を記念して、2007年に開館したとのこと。
チケットを買って、館内を進みます。
平町 公の描く壁いっぱいの三浦半島
鳥のように俯瞰しながら、ただ見下ろすだけではない、物語絵巻のような巨大絵図。海と山の高低差はデフォルメされて、その起伏の激しさをより強調。地物の大根が踊っているのも何だかコミカル。実際のスケールとはかけ離れたものでありながら、三浦半島とその周辺の特徴が実はしっかり表現されている作品でした。こういう時間と空間を平面上にのせて一枚の絵画にする手法は、何だか屏風絵や物語絵巻みたいな感じがします。
データが作る俯瞰図がGoogle Earth、平町作品はアートが作る俯瞰絵図ですね。
田中 達也のミニチュアアート
ポストイットや穴あきパンチ、髪留めクリップやバチクリ、キーボード…身近なおなじみの道具の上で、おやおや?小さな人々の営みの一瞬が切り取られたようなミニチュアアート。写真では見たことがあったけれど、実物は初めて。子供のころ読んだ床下の小人シリーズ(アリエッティの原作)や佐藤さとるのコロボックル物語の世界をのぞくようなドキドキ感がありますねー
作品の中の人たちが表情豊か(たとえ小さくて顔の表情は表現されてなくても)なのが、何とも楽しく、想像をかきたてます。
ちゃんとスケールが計算されて作られているから、ファンタジーなのにリアルな感覚を与えてくれるのかと納得の解説。といっても、文字情報は最小限。でもこれで十分意味が分かる。
チラシで作ったミニチュア看板たち
カラフルな看板ミニチュアの横には紐で縛られた紙の束。何だろう?と思いながら、看板よくできてるなーと見てみると、かすかに裏映りしているのを見つけて、「あ!広告チラシか!」と気づくしかけ。あの広告チラシの束もちゃんと意味のある展示の一部だったのね、とわかって納得。
サンドアートのコロッセオ
どうやって作ったのか知りたい。巨大建築物が洗面器の中に再現されているのが何とも可愛い。これならコロッセオもうちに持って帰れるかな?
展示室を出た廊下の窓に小さなはしご
企画展はもう見終わったと思うところで、ちょっとした仕掛けのようにミニはしご。あれー?誰が登るのかなー?とか、またもコロボックル物語ワールドへ引き戻されて、色々想像してしまいますね(いや、大人になるとそういう想像の中で遊べる機会が少なくなるから、久しぶりに楽しんでしまった)。展示室という空間にとらわれずに、企画展を見たあとにも余韻が残る感じが嬉しい。
スケールをアートで 美術館らしい切り口
「センス・オブ・スケール」というテーマがしっかり貫かれていて、美術館らしく主役は作品、解説はミニマムに、ということがよく分かる企画展でした。文字情報が徹底して最小限に抑えられているので、よく見て、想像して、考えて、気づいて、という自分自身と作品の対話を繰り返すことができます。空間もゆったり、館内も要所要所にベンチがあって、ちょっと腰掛けてみたりしながら、ゆっくり楽しめます。
スケールという普段数理的に捉えられるものを、アートを介することで感覚的に体で理解できる、そんな試みを感じた展示でした。
2019年5月29日に立教大学で開催された公開シンポジウム「AI時代におけるAIと人文科学の可能性」で聞いた”センスメイキング”な感覚をミュージアムで感じる体験と言ってもいいかもしれません。
また、機会があったらドライブがてら行ってみたい美術館です。併設のイタリアン・レストランも美味しくて、眺めも素敵。おすすめです♪
「センス・オブ・スケール展」は6月23日(日)まで開催中です。