Googleの文化・芸術へのアプローチ
世界で知らぬ人はほとんどいない、アメリカの巨大IT企業 Google。そのGoogleが手がけているWeb上のアートプロジェクトが “Google Art & Culture” です。運営はGoogle Cutural Instituteという非営利団体が行なっています。
2011年に設立されたGOOGLE CULTURAL INSTITUTEは、世界の文化遺産をオンラインで紹介するために文化団体と提携する非営利団体です。私たちは、文化部門がそのコレクションを展示し共有するための無料のツールや技術を構築し、それらを世界中の視聴者にとってより広く利用できるようにします。
Google Art & CultureにはPCからだけでなく、モバイルアプリもあるので、スマホやタブレットからも見ることができます。Facebookページ、YouTubeチャンネル、Twitter、Instagramにもコンテンツが展開されています。
世界中で文化団体と提携を進めていて、現在日本でパートナーとしてGoogle Art & Culture上にコンテンツを展開している施設は84ヶ所あります。(地図を拡大していくと提携施設はもっとありますが、コレクションとしてGoogle Art & Cultureで公開しているのが84という意味)
Googleのプラットフォームを利用してコレクションを公開するという活用をしている施設は、都市部を中心に、西日本と北海道に点在している感じですね。東北、北陸、沖縄がまだ手薄な印象。既存の提携先としては博物館、美術館が多いですが、寺や史跡、大学、アートギャラリーなどもパートナーになっています。
文化やアートに関するコンテンツを共有するためのツールやプラットフォームを無料で提供
Google Art & Cultureが提供しているのは、説明にあるように、文化施設が持つ収蔵品などを共有するためのツールや技術、デジタル上のスペースです。利用は無料です。
公式サイトによると、パートナーとしてGoogle Art & Cultureに参加している施設数は下記の通り。
Google Cultural Instituteは現在、70カ国で1,400以上の文化施設、200,000点以上のオリジナル作品の高解像度デジタル画像、700万件のアーカイブ成果物、1,800点以上のストリートビュー博物館の写真、専門家による3,000点以上のオンライン展示をサポートしています。
Google Art & Cultureでは、具体的には高解像度のアートカメラ、360°のミュージアムビューなどのデジタル化技術、デジタル化する収集管理システム、コレクションに基づいたミュージアムのストーリー構築支援などを提供しています。Google Cultural Instituteと提携してパートナーになると、Googleが提供するこのようなプラットフォームが利用できるようになります。
Google Art & Cultureでコンテンツを公開できるのは?
登録できるのは非営利団体、美術館、ギャラリーなど、著作権フリーまたは著作権がクリアされたコンテンツを持っている文化施設です。登録は https://g.co/cisignup にアクセスし、Google Cultural Instituteからの招待状をリクエストする必要があります。上記URLをクリックすると、以下のような招待状リクエストのフォームが現れます。
Google Cultural InstituteやGoogle Art & CultureのウェブサイトはGoogle翻訳をかけると日本語化できますが、このフォームは翻訳されず英語のままですが、入力して「Submit」をクリックすれば招待状のリクエストは完了します。登録に関してのよくある質問 のページは日本語化できるので、そちらで疑問点は確認してから進めればいいでしょう。送信した後はGoogleからの連絡を待つだけです。
リクエストを送信して、招待状が送られてきたら、下記のようなプロセスで登録は進みます。
- アカウントを設定
- メディアファイルを準備してアップロードし、コレクションの各アイテムの詳細(メタデータ)を提供
- コンテンツに対し、キュレーションツールを使ってオンライン上の展示を作成
- 利用可能な1つまたは複数の公開オプションを使用して、アイテムや展示物を披露するのに最適な方法を決定
登録プロセスの中で困ったことなどが出てきたら、Google Cultural Instituteのサポートも得られるようですので、わからないことがあっても安心ですね。登録がスムーズに進むと、1〜2ヶ月でオンライン上で公開されるそう。
ウェブサイトの役割として、Google Art & Cultureがどんなコンテンツがあるかな?と情報を探しているエンドユーザー向けとすると、Google Cultural Instituteはコンテンツを登録するパートナーである文化施設向けの情報を提供するサイトになっています。招待状をリクエストして、Google Art & Culture の中で既にコンテンツを公開しているミュージアムがどんな情報をアップしているか、どんなストーリーを作っているか、どのGoogleの提供しているツールを使っているかなどをチェックして、自館で何をこのプラットフォームで公開するかを考えておきましょう。収蔵品を一点一点紹介するか、展示や展示室内のストリートビューを公開したいのかなど、イメージをふくらましておくといいですね。
世界中の文化施設が同一のプラットフォームで。
言語の翻訳もできて、インバウンドの来館者への情報提供にも最適
今や世界中をつなぐ巨大IT企業Googleが無料で提供してくれているプラットフォームを利用しない手はありません。言語設定は何でも構わないようですが、途中で変えることができないようなので、設定前に日本語で始めるのか、他の言語にするか、よく検討しておくことが大切です。何語にしてもGoogle翻訳で変換できるので、閲覧者にとって特別な問題にはならないと思いますが。世界中で同じプラットフォーム上で公開されるので、日本を訪れるインバウンドの観光客への情報提供にもぴったりです。
Googleの使命 “世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすること”
でも、GoogleはなんでこのArt & Cultureをやることにしたのか?プラットフォームやツールは無料提供、特にこれで何か直接的に儲かるものでもなさそう。検索やマップなど、ほぼ毎日のようにGoogleの提供するサービスを利用しているけれど、どんな会社なのか、何を目指しているのか、ビジネスモデルは何なのか、実はよく知らない…という疑問が湧いたので、改めてGoogleという企業の理念を確認してみます。
Googleは、
世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすること
という言葉を使命として掲げています。ここでArt & Cultureについての当初の疑問はあっさり解消して、納得がいった気がしますが、もうちょっとGoogleという会社について見てみます。
この使命の後には有名な「Googleが掲げる10の事実」が出てきます。
- ユーザーに焦点を絞れば、他のものはみな後からついてくる。
- 1 つのことをとことん極めてうまくやるのが一番。
- 遅いより速いほうがいい。
- ウェブ上の民主主義は機能する。
- 情報を探したくなるのはパソコンの前にいるときだけではない。
- 悪事を働かなくてもお金は稼げる。
- 世の中にはまだまだ情報があふれている。
- 情報のニーズはすべての国境を越える。
- スーツがなくても真剣に仕事はできる。
- 「すばらしい」では足りない。
Googleってやっぱり徹頭徹尾情報のプラットフォーマーなんだということがよく分かります。
個人的な話ですが、先日子供と親の携帯を同時に機種変更した際に感じたことがあります。子供はiPhone、親はAndroidでした。自分はiPhoneユーザーなので、iPhoneの機種変更のお作法は分かりますし、ほとんどicloud経由のワンストップで済んでしまいます。Androidは初めての機種変更、加えて親のスマホはシニア用でどうやらシニア向けにメーカーがカスタマイズしてあるようです。調べながら進めたものの、ある部分はGoogleのヘルプを確認し、ある部分は端末のメーカーサイトを見て、あるアプリについてはアプリのFAQをチェックし、少々手間取りました。
その時もやっぱりGoogleってプラットフォーマーなんだなと感じたんですよね。「こんな便利なものを提供しますよ」「これをどう使うかは、端末を作るメーカーも、使うユーザーも必要な機能とサービスを選んでお好きなように」って言われている感覚。iPhoneがAppleという会社の世界観を丸ごと買って使うのに対して、Androidだとさらに自立したユーザーであれと言われている感じ。(ITの世界の人には怒られそうな表現…(^-^;))
スマホという一見同じようなモノだけれど、それを提供している企業の哲学の違いみたいなもの、端末を通してはっきり感じた気がしました。
Google Art & CultureもそんなGoogleの哲学・理念のもとに世に出たサービスです。世の中にはまだまだ情報があふれている、情報のニーズはすべての国境を越える、ユーザーに焦点を絞れば、他のものはみな後からついてくる、です。世界の多様なアートや文化は国境を越えて共有する価値のあるものだとGoogleは考えた、だからそれを共有できるプラットフォームを提供した、情報提供する文化施設にとってはCMS(contents management system)のように使えるし、エンドユーザーにとっては世界中のアートや文化に自分の手の中のデバイスからアクセスできますよ、さあどんどん活用してください、というわけです。
Google Art & Cultureは自律的に使うべし
なので、ミュージアムとして、リクエストして、招待状が届いて、さあ使い始められるぞとなったとき、ある意味とても自由度が高いので、困惑するかもしれません。収蔵品を一つひとつ丁寧に紹介していくのか、あるテーマを決めてストーリーを作るのか、アプローチは色々あると思います。どんなメディアで表現するといいか、高精細の画像か、それとも動画か、3Dで再現するのかなど、大きなフレームの中でどうデザインするかは、それぞれのミュージアム次第です。それぞれのキュレーションです。
スマホやPCの向こうにいるエンドユーザーを想像しながらオンライン上の展示を考えてキュレーションするのは、実際にやってくる来館者を想定して展示を作るより大変かもしれません。どこの誰が、いつどんな言語で見るか分からないですし。
だからこそ、すごく面白い気もします。オンライン展示の可能性を色々試させてくれるわけですから。しかも無料で。Google Art & Cultureはミュージアムにとってトライ&エラーをしながらオンライン展示の可能性を探ることができる場ともいえるでしょう。
Googleは現代のメディチ家になるか?
芸術や文化が華開く時代には、その勃興と繁栄をサポートする必ず存在があるものです。ルネサンスとメディチ家のように。文芸振興が膨大な資金力を持った組織によってなされるということは、古今東西の歴史のなかで、変わず繰り返されてきました。GoogleはArt & Cultureによって、現代のメディチ家になるでしょうか? 100年後、300年後、500年後の学生は「21世紀の芸術と文化の保存と振興に大きな役割を果たしたのは?」という問題に、「Google」と答えるのでしょうか?
インターネットの普及で社会や経済が大きく変わっていく時代、文化や芸術もその影響を大きく受けて変化・変質するはずです。そんな中で、時代の寵児という企業が歴史や文化や芸術に注目して、古きものと新しきものを繋ごうとしている試みは興味深く、目が離せません。